「わたくし、生まれも育ちも葛飾柴又です。帝釈天で産湯を使い、姓は車、名は寅次郎、人呼んでフーテンの寅と発します。」という口上も、はじめは「帝釈天で産湯を使い、」が入っていなくて、ポスターでは「帝釈天で産湯使いました根っからの江戸っ子、姓名の儀は車寅次郎、人呼んでフーテンの寅と発します。」となっていたこと。
映画の中の口上も、いろんな角度からブラッシュアップを繰り返し、一作ごとに観客の心を酔わす完成度を高めていったのだなと思いました。そんな背景があって寅さんのあの口上をまた観たい・聴きたいと思わせ続けたことも、寅さんシリーズが48作28年も続いた超ロングランの秘密ののような気がします。
寅さんの産湯に使ったとされているのが、帝釈天の「御神水(ごこうずい)」。360年も尽きることなく湧き続けているそうです。わが地元、奈良・桜井の大神神社の摂社「狭井神社」にも御神水があって、毎日お茶やコーヒーに使わせてもらっているので、御神水への親しみはよくわかります。山田監督もそういうところに着眼されたのかも。傍らには、罪穢れを洗い清めてもらおうと、参拝客が次々に頭をタワシでこすっていく浄行菩薩がいらっしゃいます。寅さんの舞台にぴったりの江戸っ子好みの風情を感じました。
と物語ってくれているのが帝釈堂正面の「瑞龍の松」。何代にもわたって植木職人の手に受け継がれてきたであろう見事な松。「あったりまえでぇい結構な松だろ。」「結構毛だらけ、猫灰だらけ。尻(ケツ)のまわりはクソだらけ」と寅さんの啖呵が聞こえてきそうです。
その寅さん、今日は本を売ってます。関心を持たないお客さんに水臭いよとノせていく「ヤケのヤンパチ、日焼けのナスビ、色は黒くて食いつきたいが、あたしゃ入れ歯で歯が立たないよ」「大したもんだ、カエルのしょうべんだね」「四角四面は豆腐屋の娘、色は白いが水臭いときた。どうだ、おい、よーし、まけちゃおう。」ときて…「まかったつむじが3つ、七つ長野の善光寺、八つ谷中の奥寺で、竹の柱に萱の屋根、手鍋下げてもわしゃいとやせぬ。信州信濃の新そばよりも、あたしゃあなたのそばがよい。あなた百までわしゃ九十九まで、ともにシラミのたかるまで、ときやがった。」
とどめのウリ言葉「どうだ畜生!さあこれで買い手がなかったら、あたしゃ稼業3年の患いと思って諦めます。」こんな啖呵も、これまた江戸の粋てえもんなんでしょうね。
お話は、次回舞台を帝釈天裏手の寅さん記念館に移して続きます。



