鉄馬ツーリングレポート ’96.9


’96秋・九州北半分ツーリングの記

博多へラーメンを食べに行こう

 結婚以来、”いつの日か、博多までラーメンツーリングをしよう”と言い続けていた。出張で博多に泊まった夜は、中州の屋台”友ちゃん”で、さんざん飲んだ後、固ゆでの長浜ラーメン(トンコツ)を2杯お代わりするのがいつものコース、だった話を幾度したことだろう。いくら旨かったといったところで、行って一緒に食べて見なきゃ分かるわけがない。九州ツーリングは結婚12年目にやっと実現し、博多から、長崎、阿蘇、別府のコースで九州の北半分を回った。南半分はこの次の楽しみに取ってある。

博多ラーメン「一蘭」

 大阪南港・北九州新門司を結ぶ名門大洋フェリーで、午前8時に新門司に着いたが、朝食は博多でラーメンと決めてあったので、ためらいなく九州自動車道に乗る。十分にお腹を空かして着いたのが、福岡・天神にある博多ラーメン「一蘭」天神店。博多での一泊が無理で、夜の屋台は次の機会にお預け。いろいろな情報誌で朝からやっているラーメン専門店を探して、やっと見つけた店だった。”友ちゃん”の長浜ラーメンは「一蘭」に比べるとややあっさり目。ただ「一蘭」は、味、固さ、具の内容、量は、お好みのまま(注文票のきめ細かく分かれた希望蘭にチェックする)だったので、注文の仕方によってはあっさり系で食べることもできた。いずれにしても、これ、これっ!これが博多のラーメン、という味をついに女房に食べさせることができて、ほっとした。

太宰府経由長崎へ

 昼食の地に決めた太宰府天満宮だったが、博多から近すぎて、広い境内の散策は朝のラーメンの腹ごなしという結果になった。池があると鳥を探すのが癖になっているわれわれを、境内の池で迎えてくれたのは青サギくん。”休め”の格好で片足をやや前に出し、帽子を目深にかぶって、少々ふてくされたやんちゃ坊主、みたいな振りをしていたっけ。

 午後早めの時間に長崎到着。眼鏡橋に近い民宿シーボルト邸に2台のバイクを預けて、歩け、歩け。シーボルト邸は、奥さんが留守で朝食のみとの約束なので、歩いてお腹を空かし、長崎の夜の巷で美味しい酒と肴にありつこうという魂胆である。中島川石橋群見て歩きの散策は、それぞれの石橋に長い年月に刻まれた表情があって、飽きるということがない。中でも1684年に作られ、国の重要文化財にも指定されている眼鏡橋は、300年以上の時を経ても褪せることのない、江戸時代の土木技術の粋を感じた。橋にせよ、家にせよ、本気で作った物は、100年や200年ではびくともしないし、陳腐化することもない。それだけの生命の光彩が吹き込まれているのだと思う。

 眼鏡橋界隈は坂本龍馬も新婚旅行に来て、散策したのではなかったかな。われわれもぼちぼち、というわけでいけす料理の店で、刺身、天ぷら、純米酒。長崎の夜の宴も、例によって例のごとき様相となる。お酒を切り上げると、夜の市内散策に超便利な市電に揺られ、ライトアップされた大浦天主堂、グラバー邸、石畳の坂道と、彫りの深い異国情緒漂う東山手へ。夜の闇が現代の喧噪を消し去ると、築100年なんて当たり前と言いたげな、洋館が伝える異国文化の息吹にふれて、19世紀へのタイムスリップが簡単にできてしまう気がした。

 

 


阿蘇へ

 翌朝、出島和蘭商館跡へ。15分の1に縮小されたミニ出島で、改めて300年のタイムスリップをした後、一路阿蘇へ向かった。今回のツーリングのメインイベント、バイクで阿蘇火口への登山にチャレンジ。随所で写真を撮りながら、世界最大のカルデラ平原のクルージングを心行くまで堪能する。牛が草を喰む「草千里」、巨大な米粒のように、頭がへこんだ緑の小山「米塚」などのパノラマを楽しみながら、地獄のすり鉢の底から怪しい噴煙を上げる中岳火口に到着。今外輪山に囲まれた平原をびゅんびゅん飛ばしてきたのが、何やらお釈迦様の掌の上のできごとに思えるほど、自然の営みの摩訶不思議を五感で味わった。

 阿蘇のお宿は、内牧温泉「内牧荘」。露天の岩風呂に浸りながら改めて阿蘇の五岳を望遠する。ここからのその眺めは、お釈迦様の涅槃像と呼ばれていると仲居さんから聞いた。先ほどお釈迦様の掌を感じたところだったので、人間というのは似たようなことを考えるものだと、おかしくなる。垣根で仕切られた女湯も露天、隣の岩風呂の女房殿は今何を考える人ぞ。これだけの温泉の名所、もう少し熱心に探せば阿蘇にも混浴の湯があったのかもしれない。それを思うと少し残念。

湯布院

 草原の中を延々と続くやまなみハイウエイ。阿蘇の余韻を味わいつつ午前中をかけてのんびりと走るが、いつの間にか湯布院に着いてしまう。湯布院で泊まりたかったのだが、日程の調整がつかず、散策と昼食だけになった。思ったより早く着いたので、歩き回る時間はたっぷり。湯布院民芸村では、ガラス細工の実演を見るのが初めてだったので、魔法のようにコップだの花瓶だのが生まれ落ちるのを飽きずにながめていた。車の旅だと、現地で歩き回るのを惜しむ感じになるが、バイクは、駐輪場所に苦労がないせいか、ポイントポイントに移動しながら、時間の許す限りきめ細かく歩き回れるのがいい。

別府で地獄を見る

 今回のツーリングのフィナーレは、別府の地獄巡り。フェリーの時間まであまり時間はなかったが、バイクの強みを発揮して、八大地獄のすべてを回った。一度人生の地獄を見てきた人間は強いという。まだまだ修行の足りない身としては、熱湯が噴出し、囂々と地鳴りがする中で、生きた巨大な鰐が数え切れないほどうごめく別府の地獄を見て、己を空しうし、今度の旅を締めくくることで、少しは明日へのバネになるのかなと思ったのだった。

メモ
・'96.9.5〜9 陽&HIRO 「九州北半分ツーリング」
・マシン・陽:KAWASAKI KLR250 HIRO:YAMAHAセロー
・バイク走行距離612キロメートル(現地のみ)。
・往復フェリー・宿2泊含む総費用:2人で約130,000円




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